マテリアル インテグレーション 2009年5月号
いろいろつかえるマイクロ・ナノバブル


特集にあたって
独立行政法人産業技術総合研究所 高橋 正好

海の魚と川の魚がひとつの水槽内で共存して泳ぐ(下図)という,あたかも竜宮城のような不思議な世界を実現したのは「ナノバブル」と呼ばれる超微小気泡である.ナノバブルは直径が1$\mu$mにも満たない小さな気泡であり,長期に持続していることが特徴である.通常,この様に微小な気泡を水中で発生させると,気泡内部に含まれる気体が急速に周囲の水に溶け出すため,気泡はほぼ瞬間的に消滅する.ところがナノバブルの場合,気泡の周囲を高濃度のイオン類が取り巻いていており,内部の気体が水に溶解することを抑制することで長期に安定化していると考えられている.これはマイクロバブルと呼ばれる直径50$\mu$m以下の微小気泡を利用して生成することで初めて可能になった技術である.

淡水魚と海水魚の共存,弱った魚の急速な回復,水没状態で花を咲かせ続ける胡蝶蘭など不思議な効果が注目されてきたナノバブルであるが,これを医療やバイオなどの実用分野で有効に活用しようという研究が活発化している.また,ナノバブルのベースであるマイクロバブルについても,これ自体が非常に新しい技術であり,水処理や環境改善,化学工学,農水産業などの分野で応用が進められつつある.

「泡(あわ)」は我々に大変になじみの深い存在であるが,微小な気泡が通常とは異なった効果を発揮することが明らかになったのは21世紀の幕開けと時期をほぼ同じくしている.この様な新しい技術であるマイクロバブルやナノバブルを実用の場で如何に使いこなしていくか,このことが技術開発の主体である.また,そのための作用メカニズムの解明が急務の課題となっている.本特集はマイクロバブルやナノバブルへの取り組みで中心的な役割を果たしている研究者が最新の情報を提供することにより日本発の技術である極微小気泡の応用展開の推進に寄与することを目的としている.