マテリアル インテグレーション 2009年2月号
マルチフェロイク材料の作製と応用


特集にあたって
大阪大学大学院 基礎工学研究科 システム創成専攻電子光科学領域 奥山 雅則

最近,マルチフェロイクス材料が大きな注目を浴びている.マルチフェロイクスというのは,強誘電性,強磁性,強弾性等の効果を複数併せ持つ物質であり,特に強誘電性と強磁性の共存が最も注目されている.強誘電性は正と負の電荷中心のずれによるもので強磁性は電子のスピンによるものであり,一般に互いに相関はないと考えられる.しかし,螺旋構造など特殊な構造においては強誘電性と強磁性の相互作用による相関が期待され,これまでにない機能性デバイスを生み出す基幹材料として期待されている.例えば,磁場印加により分極ヒステリシスが変わったり,逆に電場印加により磁化ヒステリシスが変わったりする電気磁気効果が期待される.これらの現象を用いれば,電場と磁場を組み合わせることにより,これまでの2値ではなく4値を用いる多値論理,磁化と電気分極を組み合わせたメモリや演算素子,電場により磁化を変えてファラデー効果を利用した光アイソレータ,磁界や電界印加により感度制御のできる高ダイナミックレンジセンサ等様々な機能素子の実現が想起される.

これらのマルチフェロイクスは古くからその実現が期待されていたにもかかわらず,顕著な効果を示す物質が見出されなかったため研究は進んでいなかったが,TbMnO3において顕著な電気磁気効果が低温で見いだされ,さらに実用的な室温での巨大な分極を持つ強誘電性と弱い強磁性を示すBiFeO3薄膜が作製されたことから,世界中から大きな注目を集めることとなった.このように世界的に注目を浴びているマルチフェロイクスの研究において,日本における研究への貢献も大きい.

そこで,これまでに提案された多くのマルチフェロイック材料に対し,その強誘電性と強磁性の共存やその相互作用の原理,単結晶や薄膜の作製と強誘電性・強磁性等の物性評価,デバイス応用への期待などについて第一線の研究者による解説をお願いした.本特集により,マルチフェロイクスの現状を理解し今後の研究発展を予見いただき,更なる進展ができければ幸いである.