マテリアル インテグレーション 2008年10月号
酸化亜鉛をめぐる戦略的開発の必要性


特集にあたって
東北大学多元物質科学研究所,(株)福田結晶技術研究所 福田 承生

酸化亜鉛 (ZnO) は,天然ゴムの加硫促進剤や,UVカット顔料や脱臭剤などに使用されており,セラミックスは圧電性を利用した圧電ジャイロなどへの応用が期待されている.また,ZnOは3.2〜3.4eVのバンドギャップを持ちn-型半導体の性質を有する.可視光に対し透明であるため,透明半導体としての応用が期待される.多岐に渡る応用が期待されるZnOは,これまで多くの研究者によって研究・開発がされている.1999年12月に発行された本誌マテリアルインテグレーションでは,「多様な電子機能を持つ酸化亜鉛の新展開」について特集が組まれ,ZnOを用いた紫外レーザーや透明電導膜,SAWフィルタや蛍光体・ELデバイスなど様々な方面からZnOの持つ可能性についてまとめられた.これらの研究は薄膜や多結晶を用いて行われたものであり,当時,ZnOバルク結晶はまだ出てきていなかった.ZnOの研究開発は2000年代前半にドラスチックに加速する.2000年に入り,東北大と東京電波の共同研究により2インチサイズ高品質バルクZnO単結晶の開発に成功し,東京電波により量産されるようになった.また,2004年には東北大・金研の川崎教授らによって窒素添加によるZnOのp型化と,それを用いたp-i-n接合によるZnOの青色発光が発表され,紫外--青色発光素子としての応用に注目が集まっている.バルク単結晶の開発と,ZnOのp型化という2つのブレークスルーを突破したことにより,ZnOは世界中の注目を集めることとなった.欧州では2002年に11カ国24機関が一体となり,ZnOを用いたダイオードの開発を目指すプロジェクトSemiconductor OXides for UV OptoElectronics, Surface acoustics and Spintronics (SOXESS) がスタートした.

バルク単結晶基板の開発とp型化という2つの大きなブレークスルーを突破したZnOは,環境調和型の次世代デバイスを支える材料として注目されているが,半導体としてのZnOは実用化には達していない.そのため,ZnOを用いた結晶作製及び結晶技術を,諸外国に先駆けて戦略的に開発し,実用化を早期実現させることが強く要望される.

応用物理学会結晶工学分科会シリサイド系半導体と関連物質研究会によりまとめられたロードマップによると,ZnO結晶技術は2030年に従来技術との融合による透明多機能デバイス,2040年にSiとの融合によるシステムオンチップが実現される.これらを支える基盤技術として,低抵抗・大面積均一化の開発によるInフリー透明電導膜の実現や,GaN用基板としてのバルク単結晶,不純物低減・電動制御・界面制御技術の確立による高効率紫外レーザーや低コストLEDの開発,また,ナノ構造の制御による透明トランジスタ,生体バイオセンサーの開発や室温強磁性による透明磁石スピントロニクスなどの実現が要求される.そのためには,ZnO基板を用いたホモエピ成長技術が非常に重要となってくる.現在のバルクZnO結晶は,不純物などの問題があり半導体グレードには達しておらず更なる開発が必要である.現在,欧州ではSOXESSによる連合体制で取り組んでいるが,日本では各社単独での開発であり1社のみが結晶を提供している.結晶開発技術の飛躍的な向上に向け,SiやGaAs単結晶開発は複数社が国家プロジェクトをもとに共同で行った.ZnOも類似の方法(ソルボサーマル法)で開発されているGaN結晶と併して国家戦略として取り上げても良いテーマではないだろうか.