マテリアル インテグレーション 2008年5.6月号
化学センサ特集号の発刊に当たって


特集にあたって
化学センサ研究会会長(九州大学産学連携センター) 三浦 則雄

社団法人電気化学会の化学センサ研究会は,九州大学の故清山哲郎先生らが中心となって,前身のセンサ研究懇談会(1977年発足)を発展させて1984年に設立され,今年で24年目を迎えます.現在,本研究会は法人会員約40社,個人会員約300名を抱えており,年6回の機関誌「Chemical Sensors」の発行,年各2回の研究発表会及び研究会の開催,各賞の授与,各種国内・国際学会の共催,協賛,支援などを行っています.今年度は特別にこの出版事業を加えております.

物理的現象を扱う物理センサに対して,化学的現象を伴うすべての検知素子(バイオセンサも含む)を対象として,包括的に化学センサ (Chemical Sensor) という呼称がつけられた後,世界的にこの呼称が認知され始めたのは,1983年に福岡で開催された第1回化学センサ国際会議 (IMCS) 以降と思われます.その後,この会議は,アジア,欧州,アメリカ地区の順で2年毎に開催され,今年は7月に米国のオハイオ州コロンバスで第12回が開催されます.

化学センサに関する書籍は,故清山先生らが1982年に講談社サイエンティフィックより「化学センサー:その基礎と応用」を発刊されたのが最初です.この本は,今では化学センサ研究のバイブル的な存在になっています.また,同年には「電気化学と工業物理化学」誌の第50巻第1号に化学センサの特集号として,当時の第一線の化学センサ研究者による13件の解説記事と8件の論文が掲載されています.前者の本の目次を見ると,ガスセンサー,固体電解質センサー,生物電気化学センサーに分かれており,当時はセンサではなくセンサーとのばしていたこと,東工大の相澤益男先生がこの直後に使われ始めたバイオセンサという表記はまだここにはなかったこと,固体電解質センサの比率が高かったことなどが分かります.

その後,四半世紀を経て今回の特集号の発刊となるわけですが,その間に化学センサの分野は大きな発展を遂げています.特にバイオセンサの分野では別の国際会議が開催され,国際専門誌も発行されています.今回の目次を見ましても,医療用や生化学用などの多種多様な新規のバイオセンサが紹介されていることがわかりますし,マイクロ分析システム ($\mu$TAS) を組み込んだバイオ・イオンセンサの発展も著しいものがあります.一方,ガスセンサについては,安心・安全向け,車載用,環境計測用,アメニティ用などの新規分野での展開が見られますし,ナノ化材料技術やMEMS技術の進展に伴った省電力型素子やパターン認識方式のマイクロアレイの出現も特筆すべきでしょう.

今回の執筆陣は,化学センサ研究会の役員を中心として,総勢約60名にお願いしており,本研究会の総力を挙げての執筆態勢をとっています.また,ガスセンサ分野とバイオ・イオンセンサ分野がほぼ半々であり,それぞれの応用事例についても何名かの企業の方に執筆していただき,全体的によくバランスのとれた構成となっています.内容的にも単なる解説ではなく,最近の各分野のトピックスを中心に執筆していただいており,最新かつ最先端の内容を知ることができます.

この特集号の発刊およびその単行本の発刊には,本研究会の学術交流基金をあてることが役員会,総会において認められております.また,単行本の発行後には,本研究会の会員全員に配布するとともに,比較的安価な書籍として販売する計画です.昨今の非常に高価な解説本とは異なり,豊富でかつ最新の内容でありながらも,若手研究者や学生諸君にも入手しやすいように配慮する予定です.この一冊が,化学センサ研究の今後の活性化や進展に大いに寄与するとともに,社会に対する有益な情報発信や若い人の教育に役立つことを願っています.

最後に,本特集号を企画するに当たり, 絶大なるご協力を頂きました兵庫県立大学の水谷文雄教授,長崎大学の清水康博教授,(株)ティー・アイ・シィーの津田直樹社長と松田美佐子様に深謝いたします.