マテリアル インテグレーション 2008年3月号
電子セラミックス材料の積層技術


日本の伝統工芸を支える心と技
日経BP社 岡本 明

日本の伝統工芸を技術という側面から捉え,それが現在の先端技術にどのようにつながっているのかをテーマにした「技術の系譜」というテレビ番組制作のお手伝いをしたことがある.6回のシリーズ物で,輪島の漆器,萩の焼き物,金沢の金箔などを取り上げた.これらは日本を代表する工芸品であるがどれ一つとして日本がオリジナルなものはない.もともと中国から直接,あるいは朝鮮半島を経由して伝えられた物である.技術の側面からということで,それぞれの工芸品の,製造における材料やプロセスを詳細に取材し番組を製作したわけであるが,どの伝統工芸にもオリジナルを遙かに越え,繊細な工夫がたくさん含まれているのにびっくりした.

例えば,金沢の金箔は,光を透過してしまう100ナノメートルという厚さである.和紙に挟んでプレス機で打ち延ばし,徐々に薄くするわけであるが,この和紙にすごいノウハウが含まれている.特殊な手漉き和紙に,灰から採ったアク汁を滲み込ませる工程があるが,このアク汁に卵の黄身や,柿渋などを添加することにより,極薄に延ばすことが可能になり,金箔に光沢や柔らかさなどをも与えている.これらのノウハウは長年の経験の中から生まれてきたものであるが,もともとこのような技術を生み出した中国などのレベルをはるかに超え,まさに芸術の域に入っている.海外から入ってきた技術でも,日本独自の進化を遂げて“日本の技”として世界に認められているものはたくさんある.日本人は,常に精進してより良いものを作ろうとする気質を持っているようである.

もともと米国で生まれた積層電子部品も同じ進化過程を経ている.他でもできるコモディティー製品には付加価値はなく,利益も得られなくなっている近年,積層セラミックコンデンサにおいては,小型化,大容量化を実現している誘電体の薄層化技術が他国のメーカーに対する競争優位性の源泉となっている.厚さが1マイクロメーターを切った誘電体層を,金属電極層と交互に何百層も積層し,欠陥なしで焼き上げるというのはまさに芸術の域に入っていると云える.他の積層セラミック電子部品もそうであるように,経験に基づく複雑な因子が組み合わさった「擦り合わせ技術」の強さが日本の電子部品産業の国際競争力を支えている.この状況はしばらく続くと思われる.

一方,デジタル化はエレクトロニクスの世界で大きな変革を短時間のうちに成し遂げてきた.アナログの世界では日本人の感性と産業競争力がマッチし,大きな競争力を誇っていたが,デジタル時代には,長年蓄積してきた高度な技術も突然付加価値を生まなくなる危険性をはらんでいる.視野を広くし,部品自体にソリューション提供力を付けるなど,将来も競争優位性を保ち続けるため,新たなる差別化要因を生み出す創造的なイノベーションが望まれる.