マテリアル インテグレーション 2007年4月号
プラズマからChemistryを取り出してモノをつくる


特集にあたって
(独)物質・材料研究機構 ナノセラミックスセンター プラズマプロセスグループ グループリーダー 石垣 隆正

大気圧付近で発生する熱プラズマは,高密度流体中で発生するプラズマの代表選手です.熱プラズマは材料プロセッシングに重要な特徴を有しており,合成プロセスが進行する反応場の制御性を高めることにより,形態,結晶構造,化学組成において従来にない材料創製が可能です.熱プラズマはその名の通り,「熱い」です.1万度以上の超高温をもっていて,発生圧力が比較的高いのでプラズマ密度が高く,軽い電子だけでなく,原子や分子など重い粒子も温度が高く,本当に「熱い」状態です.また,その中には高濃度のラジカルなど活性化学種が含まれています.

本特集では,まず,高温熱源として利用されてきた熱プラズマから,Chemistry を抽出して材料プロセスに利用することを取り上げました.熱プラズマの発生法としては直流アーク放電を発生するプラズマトーチと高周波(RF)磁場による誘導熱プラズマがあげられます.ここで取り上げたトピックスの多くが使用しているRF熱プラズマ法では,RFコイルを通して周波数・数MHz,入力・数十kWの高周波を供給してプラズマを発生します.このRF熱プラズマ法は無電極放電法ですので,酸化,還元,反応性といった各種雰囲気のプラズマを発生することができ,特異な化学反応場を提供します.そのために,化学反応性を顕在化させる反応場を最適化して探索すれば,ミクロン$\sim$ナノサイズの粒子,薄膜・厚膜の創製が可能になります.

また,プラズマ発生法のさらなる高度化を追求する必要があります.そのために,プラズマ発生圧力を下げたり(メゾプラズマ),タイムドメイン制御を取り入れたり(パルス変調熱プラズマ)した新しいプラズマ発生法では熱的効果が抑制され化学的効果が顕著に現れてきました.マイクロプラズマ発生では,マイクロデポジションも可能となりました.アーク放電法でも,多相交流アーク放電が開発され,熱プラズマの体積が非常に大きくなり,プラズマの流速が低くなってプラズマ中の化学反応を十分に生かせるようになりました.液中プラズマ発生では,プラズマ雰囲気の調整,急冷効果などに気相反応場にない特徴が現れました.さらにクラスター流体というべき超臨界状態にある流体中でのプラズマ発生は,クラスターの介在する新規プラズマ状態を実現しました.これら新しい試みを加えて高密度流体中のプラズマからChemistryを取り出す道筋が勢揃いしました.

本特集で取り上げたプラズマ材料プロセスのユニークな点,将来の可能性を理解していただき,多くの方に新たに使っていただけることを切望してやみません.