マテリアル インテグレーション 2006年7月号
触媒および光触媒材料の分子レベルでの理解


特集にあたって
大阪府立大学大学院工学研究科 教授 安保 正一

ハーバーにより窒素と水素からアンモシアを合成する鉄系触媒が開発されてから,およそ100年になる.それから100年の間,重合触媒,水素化触媒,合金触媒,脱硫触媒など各種の触媒が開発され,20世紀の近代化学工業とその繁栄を支えてきた.触媒は,現在においても,環境保全やクリーンエネルギー創製と関連してますます重要な役割を担っていると言っても過言ではない.環境と省エネルギー対策に優れた日本の自動車用触媒,脱硝触媒,家電製品用触媒,燃料電池用触媒などが現在の重要な触媒として上げられる.さらに近い将来に向け,太陽光で稼動し水を水素と酸素に分解し,有害物質や有害なウイルス等で汚染された水や大気を清浄化・無害化する光触媒,破棄プラスッチク分解用触媒,バイオマスから水素を製造する触媒,キラル反応を誘起する触媒,触媒機能を制御し最適化が可能な自己再生型インテリジェント触媒の開発などが重要となるであろう.

これら重要な触媒の開発には,あらゆる物質の原子構造の決定を0.1オングストローム単位で正確に行うことのできる手法が不可欠となる.この意味において,ここ半世紀の間,シンクロトロン放射光の出現ほど自然科学や工学の発達に大きな影響を与えた科学技術は他に類を見ない.放射光は,電子を真空中で光速近くまで加速することによって得られる光で波長の短い硬X線から波長の長い遠赤外線までを含んだ強力な光線である.この強力な光線を波長を制御し偏光し光源として用いることで,あらゆる触媒材料の構造を0.1オングストローム単位で正確に知ることができる.現在では,上述したクリーンエネルギー創製,環境保全・環境浄化のための新規な触媒の開発を進める上で極めて重要な手法の1つとなっている.