マテリアル インテグレーション 2005年2月号
特集 異方性工学のすすめ(3)プロセスと異方性


特集によせて
大阪大学 産業科学研究所 中山 忠親

 無機,有機,金属をはじめとしてすべての材料においてはその電子,結晶構造あるいは組織形態に起因した特異な特性を有している.したがって,意図的な構造の制御を行うことにより,材料自体の特性を最大限活用することはもちろん,これまでに活用されてこなかった潜在的な特性を掘り起こすことが可能となる.このような広い意味での構造制御による新素材の発掘は,未来産業が直面する技術的な壁を打破する鍵であり,新産業を生み出すシーズである.しかしながら近年の社会情勢を鑑みると材料研究開発には資金的にも,また,時間的にもリスクが高いために,ここに人材や資本を選択集中することが困難となってきている.従って,このような材料開発研究のリスクを最小限に抑えながら持続的に発展させていくためには,ターゲットを絞り,その目的機能を充足させるための材料を短時間に他に遅れることなく即効的に開発する戦略が不可欠である.これに基づき,汎用にはならなくとも明確な出口に対して要求される特性を引き出すために,材料の持つ本質的な異方性に着目し,ある「きっかけ」を与えることによって,人為的な制御は最低限にしつつ構造の「造り込み」を施すことをねらった研究に着目している.この考えのもと,これまでに本月刊誌2004年1・5月号において「異方性工学特集号」として取り上げられている.

 このような活動の中から,NPO法人新産業支援インターマテリアル機構(略称NPO IMAGINE)の主催により,2004年10月31日から11月1日の日程で大阪において第一回異方性工学国際ワークショップ (The 1st Workshop on Anisotropic Science and Technology of Materials and Devices)を開催したところ,独創的で優れた多くの講演を得た(会の詳細は以下のホームページを参照されたい;http://www.imagine-npo.org/seminar/anisotropy.htm).講演はコンピュータシミュレーションによる基礎的な異方構造材料設計への指針から,無機,有機,金属の垣根を越えた様々な異方構造制御プロセス,異方性を利用した材料創成に基づいた実用化例の紹介,など多岐にわたり,活発な議論が行われた.

 この議論の中で,材料開発の最終目的は真に人間社会に役に立つ「ものづくり」を行うことにあり,このためには一つ一つの実用化の成功体験を積み上げていくことの難しさ,また,大切さとその喜びを共有することが重要であるという意見が出され,参加者一同がこれに共感した.本特集号においては,異方性を利用した材料設計に基づき,様々な構造・機能・プロセスを集積することで実用化を志向した研究から,これがデバイス設計あるいはモジュール化へと展開された成果ならびに,実際にこのような異方性を利用したものづくりによる実用化例を紹介している.

 最後に,本特集が材料開発に取り組む,行政,企業,大学関係者,とりわけこれから材料分野における新産業創成に取り組む起業家をエンカレッジするものとなることを心から願っております.