マテリアル インテグレーション 2005年1月号
特集によせて
大阪大学 産業科学研究所 関野 徹
「ナノテクノロジー」というキーワードが専門家の間で意識的に使われ初めて
既に30年以上になる.我が国においては特にバルクや粒子などの材料系において
国際的な競争力を持った研究開発が行われてきた.その一例がカーボンナノチュ
ーブである.読者の方々も良くご存じのこの材料は実質的な発見から直ぐに高い
注目を受け,全世界で実に多くの研究が行なわれている.これは,言うまでもな
くそのユニークな低次元ナノ構造と炭素が織りなす多様な機能のためであり,様
々な応用に対するインスピレーションを与える(最近の動向などは2004年6月号特
集「先端カーボン」等を参照されたい).一方,こうしたユニークな低次元構造
や異方構造に着目する試みが最近「異方性工学」として新たに体系化されつつあり,
既に本月刊誌でも2004年1月,5月号で「異方性工学のすすめ」として取り上げられ
ている.
さて,本号で取り上げる酸化物ナノチューブおよびナノホールアレイは最近注目
される低次元ナノ構造を有する材料であり,いわば異方性工学を適用しうる材料の
一つである.ナノチューブ材料は前述の炭素のほか,これまで窒化ホウ素や酸化バ
ナジウムのような,安定に層状構造を有する化合物のみにおいてその存在が確認さ
れてきた.ところが,1990年代中盤以降,テンプレート等を用いたナノチューブ状
化合物の創製研究に始まり,その後の春日らによる簡便な溶液化学プロセスを用い
た自己組織チタニアナノチューブの報告以来,僅か数年の間に実に多岐に渡るナノ
チューブ関連研究が行われてきた.一方,陽極酸化アルミニウムに代表される自己
配列化したナノチューブ/ナノホールアレイ材料についても多くの基礎ならびに応用
研究が行われている.
こうした材料は,物質の有する,1)基本(結晶)構造,2)化学結合,3)物性,4)
低次元のナノ構造・ナノスペース・ナノ表面,5)自己組織化・自己配列化などの要
因が協奏的に相関することで機能の向上や新規機能発現などが期待される.特に酸化
物や化合物などは組成や結晶構造制御によって様々な物性を制御することが可能であ
り,こうした形態-機能相関は材料の新しい応用や高次機能化デバイス創製のための重
要な基礎となるものと考えられる.こうした研究開発の動きは特にここ1,2年目覚ま
しいものがあり,大学・研究機関のみならず民間企業においても基礎から応用を指向
した研究が行われている.
この様な背景を踏まえ,筆者らは昨年2004年9月に開催された日本セラミックス協会秋
季シンポジウムにて「酸化物ナノチューブ・ナノワイヤ・ナノアレイ材料の科学」特定
セッションを企画運営したところ,独創的で優れた多くの講演を得た.そこで,本号
ではこの特定セッションで講演いただいた内容を中心に,酸化物系ナノチューブ・ナ
ノホールアレイ材料の最新の研究成果について,研究開発動向等を含め10編の記事を
内外で活躍される第一線の研究者に執筆頂き特集を組んだ.
これらは様々な機能が期待される希土類酸化物系ナノチューブを含む酸化物ナノチュー
ブやナノホールアレイの合成や構造解析に関するものから,光機能・エネルギー創製材
料,フィルター材料や生体関連材料への応用,更にはギネス級の材料創製に関するもの
まで多岐に渡っており,多くの知見と示唆を与える記事を執筆頂いた.この場を借りて
著者各位へ御礼すると共に,本特集のきっかけとなった前述の特定セッション開催の機
会を与えていただいた日本セラミックス協会ならびに関係各位へ改めて深い謝意を表し
たい.
最後に,本特集で取り扱った低次元ナノ材料が我が国で今後更に大きな発展をするため
には,これまで以上に多くの研究開発が良い意味で競争的に行われることが重要であり,
興味をお持ちいただいた方が何らかの形で研究開発を始められること,或いは関与され
ることを強く期待している.加えて,本特集が材料開発に携わる研究者のみならず,様
々なシステム開発エンジニア諸氏や今後の科学技術の発展を支えて行く若手研究者・学
生諸氏に新たなインスピレーションを与える一助になれば大変幸いである.
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