マテリアル インテグレーション 2004年11月号
特集 機能性単結晶の最近の進展


巻頭言
早稲田大学 各務記念材料技術研究所 島村 清史

 単結晶と工業の結び付きは装飾用サファイア(Al2O3),圧電・光学部品用水晶(SiO2)などの天然単結晶の加工応用に端を発し,ダイヤモンドを含め,次々とこれらの人工結晶が作られるようになった.さらにCaF2,Ge,Si等へと種類が増加して行った.特にトランジスタの発明を契機に,量の増加とともに急速に応用分野の伸長と多様性をもたらした.今では半導体結晶ばかりでなく,振動子・弾性表面波・電気光学・磁性用単結晶など,エレクトロニクスやオプトエレクトロニクス工業の存在そのものと大きく関わり合っている.単結晶づくりについてみると,最初は天然と同じ物を「人工的に造り出す」ことが命題であった.ところが単結晶のトランジスタへの応用は,その命題を「不用不純物を除き,必要な添加物を設計,要求通りにドープして造り出す」に変え,さらに,「欠陥の少ない,完全な結晶を造り出す」へと変えた.これらの不純物制御と完全性の他に,「工業化という条件のもとでの結晶造り」へと発展して行った.手法もCzochralski(CZ)法など限られたものになり,その結晶製造技術水準はデバイスの要求水準に対応して絶えず変わり,極度に高度化され続けている.最近では特に低コスト化,新しい結晶成長技術との融合による新しい機能性単結晶の開発への要求が一段と強まっている.

 最近の結晶研究の一つの方向は大口径化であろう.LSI技術に対応するSiがその代表であるが,現在,直径400mm強のサイズにまで発展している.高周波数化するデジタル移動体通信に対応し,酸化物においても,表面弾性波用としてのLiNbO3,LiTaO3を中心に大口径化が進んでおり,現在では直径6インチに達している.GaNなどの半導体薄膜用の基板,光学部品として使用されるサファイアにおいては,EFG法(形状制御結晶成長技術)により8インチのリボン状結晶が得られている.CaF2においても超高品質を持った大口径化結晶の研究が盛んである.これは157nmを光源とする半導体露光装置用の窓・レンズ材として必要とされているものである.米国や独国を中心に現在,Bridgman法による直径12インチの結晶が提供され始め,国内でも様々な検討が始まっている.超高速IC,デジタル移動体通信など,今後の情報化社会を担うこれらの材料の大型・高品質化結晶成長技術の開発は,今後益々加速するであろう.

 大口径化ととともに,薄膜結晶の研究が急速に進展している.注目すべきは,バルクでは得られなかった新しい材料の単結晶化が得られ始めていることであろう.GaNがその一例である.デバイス側からの要求により,積層構造,量子井戸構造など,その結晶技術は高度化し続けている.

 もう一つの大きな方向は,優れた特性を有する新たな単結晶の出現である.SiC自体は古くから研究されてきたが,バルクへの強い要望があった.最近では2インチの基板結晶が昇華法により生産されているが,これは米国のみでなく,国内でもその動きが始まっている.SiCに特化したベンチャー企業も立ち上がっており,6Hのn型やp型,絶縁基板,4Hなど,各種が生産されるようになった.(1-x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-xPbTiO3固溶体単結晶はセラミックスに比べ電気機械結合係数や比誘電率が大きい,帯域幅が広く弾性率が小さいなどの特徴を有する.そのためリアルタイムの超音波イメージ診断装置用として期待され,現在までにBrigdman法により直径2インチまでが得られている.コストダウンが達成されれば一気にその応用が広がると期待されている.同じ医療分野において,高速・高解像度を有するPET(陽電子放出断層撮像)装置の開発が盛んである.これには大量のシンチレーター結晶(1台で数万個)が必要とされ,高密度,短い蛍光寿命,高い発光量などの特性が要求されていた.近年,米国から発表されたLu2SiO5と国内から発表されたGd2SiO5が有力材料として,直径4インチまでの結晶が得られている.融点が高いことによる結晶成長上の問題,加工性なども指摘されたが,それらもほぼクリアーされているようである.

 本特集号では,これら様々な角度からの機能性無機単結晶材料,特に最近話題となっている材料を中心に取り上げ,現状と今後について考察するものである.将来を展望する一助になれば望外の幸せである.