マテリアル インテグレーション 2004年10月号
特集 フォトニックフラクタル


巻頭言
大阪大学 接合科学研究所附属スマートプロセス研究センター 宮本 欽生

 フォトニックフラクタルは,電磁波を内部に強く局在させる誘電体のフラクタル構造を,我々の共同研究チームが昨年3月に見出した際につけた名前である.電磁波や光を局在させる材料としてはフォトニッククリスタルがよく知られており,1990年代から研究開発が活発に行われている.フォトニックフラクタルも,我々がフォトニッククリスタル研究を行ってきた過程で生まれたものである.

 フォトニッククリスタルとフラクタルの構造上の違いは,前者が周期構造であるのに対し,後者は自己相似構造であることにある.また,機能上の違いは,前者が誘電率周期に対応する波長の電磁波をブラッグ回折によって完全反射しその結果透過させないのに対し,後者は誘電率の3次元的な自己相似パターンに対応する入射電磁波を反射も透過もさせずに,一種の黒体のように働くところにある.フォトニッククリスタルによる電磁波や光の局在機構は理論構築もなされよく理解されているが,フォトニックフラクタルでの局在機構はまだよくわかっていない.むしろ,次々と出てくる新しい実験結果に対し,それらを整理し説明する理論形成が追いつかない状態にある.

 電磁波や光を,反射も透過もせずに局在させることにより,無反射吸収材,高効率アンテナや共振器,高周波熱処理や治療等々,情報通信,エネルギー,医療等への広範な応用が期待でき,将来的には電磁波や光エネルギーの蓄積も考えられることから,世間の注目を浴びている.我々も,このような応用を早期に実現していくため,今年の6月から企業を対象としたコンソーシアム「フォトニックフラクタル研究会」を設立し,実用化への検討を始めている.

 フォトニックフラクタルに関する共同研究は,光物性,量子光学,材料科学,フラクタル科学等の専門家5名が中心になって行っている.本特集は,これら共同研究者がそれぞれの専門分野の立場から,フォトニックフラクタルに関して執筆した最初の特集記事である.我々は,新しい科学技術分野を構築する意気込みでいるが,何しろ歴史的にも世界的にも今までに知られていない材料である.互いに矛盾する記述や誤り,あるいは勢い余って言が過ぎている箇所なきにしもあらずである.読者の批判を乞いつつ,フォトニックフラクタルに閉じ込められている夢を実現していきたいと願っている.