マテリアル インテグレーション 2004年7月号
特集 ヘリカル/らせん構造物質・材料とその応用(1)
巻頭言
岐阜大学工学 教授 元島 栖二
資源のないわが国が,しかも産業空洞化が著しく進む厳しい状況の中で,21世紀も永続的で安定した発展を遂げるには,世界に先駆けた先進的科学技術の開発・発展と新産業の創出が求められている.政府は21世紀を「知の世紀」と位置づけ,大学改革と科学技術政策により「知の創造」(科学技術の推進)と知の活用(産官学連携)をはかり,新技術・新産業を創出することにより経済活動を活性化し,新しい日本を創る政策を展開している.その中で,あらゆる科学技術の横断的基礎技術であるナノテク(超微細技術)に多大な期待がよせられている.特に最近,ナノテクを支えるナノ材料として,フラーレン,ナノチューブなどの新炭素系材料が特に注目されている.ナノテクあるいは21世紀科学技術の究極の目標は,省資源・省エネルギー・ソフト構造の生命体であるともいわれている.
生命体の基本であるDNAやたんぱく質,あるいは電磁波や宇宙の動きに至るまで,森羅万象の基本構造の一つとして3D-ナノヘリカル/らせん構造がある.ミクロンからナノオーダーの大きさの3D-ヘリカル/らせん構造を持つ物質・材料は,二重らせん構造のDNAや一重らせん構造のタンパク質が,生体に対して極限的高度機能を発現しているように,既存の物質・材料では得られない新規の高度機能の発現が期待できる次世代型の革新的新素材である.3D-ヘリカル/らせん構造を持つ物質・材料として,カーボンマイクロコイル(CMC),カーボンナノコイル(CNC),ヘリカルポリアセチレン,ヘリカルセラミックス,ヘリカル高分子など,種々のヘリカル/らせん構造物質/材料が合成され,その特性評価や用途開発などが活発に進められている.このような新素材・材料開発の基本コンセプトは,“バイオ・ミメテイック”な材料開発概念よりはるかにスケールが大きく宇宙的であることから,“コスモ・ミメテイック”とも言われている.
カーボンマイクロコイル(CMC)の実用化については,すでに実用化第1号としてCMCを添加した化粧品が発売され,また電磁波吸収材としてのサンプル供与も始められている.平成9年に設立されたカーボンマイクロコイル(CMC)研究会は,法人会員数が70社を超え,毎回100名以上の参加者があり,活発な研究発表・討論が繰り広げられている.また,昨年10月には第1回ナノヘリカル/らせん構造物質・材料に関する国際会議(Nanohelix-2003)が横浜で開催され,同材料に関する世界拠点づくりも進められている.
そこで,本特集では,革新的新素材として幅広い応用が期待されているカーボンマイクロコイル(CMC)を中心とした3D-ヘリカル/らせん構造物質・材料に関する研究と用途開発の現状について,各界の専門の方々に解説していただいた.本特集号を足がかりとして,これまでの新素材開発とは異なる新しいコンセプトに基づく材料開発が進展し,もって新産業創生に寄与することができれば幸いである.
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