マテリアル インテグレーション 2004年5月号
特集 異方性工学のすすめ(2) プロセスと異方性


巻頭言「異方性工学のすすめ」
(株)豊田中央研究所 無機材料研究室 主任研究員,Ph.D. 谷 俊彦

 2004年1月に編まれた異方性工学の特集1号「構造と異方性」では,物質のメソ構造から結晶構造,あるいは分極ベクトルや磁気秩序の異方性がマクロスコピックな特性異方性を生む現象と理論を,第一線の材料物性研究者の方々にわかりやすく解説していただいた.同じ号に寄せたエッセイにある人間とのアナロジーで表現すれば,「異能の起源」について論じていただいたことになる.
 特集2号では,引き続き「異方性」をキーワードとしながら,物質を応用へと橋渡しするプロセスに光をあててみたい.即ち,材料としての利用形態に応じて,これらの物質が持つ固有の物性異方性を伸ばすプロセスや,隠れた異方性を引き出すプロセスである.それはあたかも,特異な「素質」を持った子供たちの異方的能力を伸ばし育てる「教育」に似ている.

 これら異方性に関わるプロセスとしては,まず,単結晶に近い(あるいは,総合的にはこれを超える)特性を得ることを目指す配向多結晶作製技術に代表される,
(1)異方性を(理論限界近くまで)伸ばすプロセスがまず挙げられる.

これに加え,必ずしも素材としての物質自体では異方性が強くなくても,その物質から傾斜組成材料や多孔構造が制御された材料を創る,
(2)異方性を引き出す(あるいは創り出す)プロセスも重要な異方化プロセス技術と言える.

そして最後に,異方性エッチングを駆使した微細加工技術のように,
(3)物質固有の異方的性質や印加する外部場の異方性を利用して,人類にとって有用な構造を作ったり,有効な処理を行うこともまた,異方性工学の重要なテーマである.

 これらのプロセスの多くが,何らかの形で自己組織化を利用していることは非常に興味深い.「(将来の職業を想定しながら)子供が好きな方向に才能を育てるのが最良」という,「異方性を伸ばす教育」における自己組織化との共通点は,あるいは偶然ではないかもしれない.

 以上のように,特集2号では,「プロセスと異方性」をテーマとして,材料の異方性を伸ばし,引き出し,利用するプロセスについて,特に最近斯界で注目を集める新技術を提案されている研究者の方々に執筆をしていただいた.