マテリアル インテグレーション 2004年3月号
特集 希土類蛍光体


巻頭言
大阪大学大学院工学研究科 今中 信人,増井 敏行

明かりの歴史は,人類が炎を手にした時から始まった.以来,我々は光を愛し,たき火,ろうそく,行灯,ランプ,電球,蛍光灯と,時代の流れと共に光を自在に操る方法を次々にあみ出してきた.そして現在では,明かりだけでなく,テレビや液晶などのものを映し出す道具や,光ファイバのように情報伝達の道具としても光を利用している.このように,我々はいろいろな発光現象を解明し,技術を積み重ね,多くの発光材料を開発,実用化してきたが,これら発光材料において,希土類元素の果たした役割は大きく,その活躍には目を見張るものがある.

希土類発光材料に関する研究は,世間から脚光を浴びる以前からなされており,すでに理論的な解析も行われていた.しかしながら,希土類自身の分離が困難なこともあり,低純度で高価格なうえ,優れた特徴を持つ材料も開発されていなかった.希土類の名を一躍世に知らしめたのが,1964 年のカラーテレビ用赤色蛍光体の開発である.カラーテレビ用赤色蛍光体は,Zn3(PO4)2:Mn2+ にはじまり,(Zn,Cd)S:Ag を経て,希土類蛍光体YVO4:Eu3+, Y2O3:Eu3+,Y2O2S:Eu3+ が開発されたが,Eu3+ 蛍光体の開発でカラーテレビは,真の「カラーテレビ」となったといっても過言ではなく,明るさや色再現性が従来に比べ大幅に改善されたのである.希土類発光材料の大きな特徴は,希土類元素固有の4f 軌道間のエネルギー遷移を利用した発光にある.4f 電子は5sや5p 電子よりも内殻にあるので外部場の影響を受けにくい.従って,希土類イオンによって吸収された光のエネルギーは周りの原子との振動によって無駄に消費されることが少ないため,発光スペクトルは狭く鋭い線状となる.これが他の元素系では見られない大きな特徴となっている.また,本特集号でも取り上げたように,近年は環境を配慮した新しい発光デバイスへの応用や,バイオや医療分野への展開を見据えた研究開発が盛んに行われており,希土類を利用した発光に関する研究は,依然として燦然たる輝きを放っている.

今回の特集号では,幅広い分野における希土類発光体の先端情報の提供を目的とし,希土類発光材料に携わる第一線の研究者に執筆をお願いしている.また,次ページにもあるように,本年の11 月7〜12 日に奈良県新公会堂にて開催される希土類国際会議「Rare Earths ’04 in Nara, Japan」では,東京工科大学の山元明先生がオーガナイザーとなり,本特集号の執筆者らが中心となった希土類発光体のセッションが設けられる.我が国のみならず海外からも,希土類発光体に携わる第一線の研究者が加わり,活発な討論が交わされることとなろう.本特集や,来たる国際会議を契機として,今後多くの方々が希土類発光材料に興味を抱いてくれることを期待している.さらに,今後の研究の進展によって,新規物質の創出をはじめ,21 世紀における我々の生活,ひいては人類の未来に新しい光明をもたらしてくれるような,まさしく「光り輝く」成果が得られることを願ってやまない.