マテリアル インテグレーション 2004年1月号
特集 異方性工学のすすめ(1)構造と異方性


巻頭言
新産業支援インターマテリアル機構(IMAGINE)異方性工学研究会座長 原 邦彦

工業製品に使われている物質や材料の持つ性質は,気体や液体を除けば,それが天然自然の物であれ,人工的に合成された物であれ,全く等方的であることは稀である.周りを見渡してみると,性質が異方的であることを積極的に利用して役に立つものを作り出している場合がむしろ多い.たとえば,液晶ディスプレイにおける液晶分子の持つダイポール性の利用,超高速スイッチング用半導体超格子素子における電子の2 次元性の利用,FRM ,FRP に代表される繊維強化材料の一軸性高強度特性の利用,高性能圧電セラミックスにおける圧電分極異方性の利用,高安定水晶振動子におけるピエゾ係数の異方性の利用など,さまざまな事例を挙げることができる.
機械構造材料,電気・電子材料,磁性材料,光学材料,半導体材料,化学材料,触媒材料,生体機能材料など機能材料の特異的諸性質と,材料を構成する原子・分子の短距離配列や長距離秩序性あるいは材料の微視的な構造など,広義のナノ構造との関係を「異方性」のキーワードで体系的に整理することによって,金属材料学やセラミックス材料学な ど従来の属性分類学的または縦割り的な材料学に対して,材料全体を横断的に俯瞰した新しい機能材料設計原理や材料合成の手法が生み出されるのではないだろうか.この新しいコンセプト,すなわち「新しい有用人工物を生み出すために,物質や材料の持つ異方的な性質を解明する,または創造する,または積極的に利用する科学と技術」を定義し,これを「異方性工学」と名づけ,最近,研究会を立ち上げた.この研究会を中心にして異方性工学が高邁に切り拓かれ,これまでの材料学の手法では実現困難とされていた二律背反の性質を併せ持った全く新しい物質や機能材料が数多く創造され,もって創造科学立国日本にふさわしい高付加価値の人工物が生み出されていくことを期待している.
本誌に3 回にわたって,構造と異方性,プロセスと異方性ならびに異方性のインテグレーションの3 分類で異方性工学の特集を組み,斯界第一線でご活躍の先生方にご執筆をいただけることになった.本特集号が異方性工学に対する理解と今後の発展に大いに貢献することを確信している.