マテリアル インテグレーション 2003年7月号
特集 希土類4f 電子機能材料の開発動向


巻頭言
大阪大学 先端科学技術共同研究センター 町田 憲一

希土類は,LaからLuまでのランタノイド元素に, ScとYを加えた一群の元素の呼称である. この希土類のなかで,特に4f軌道に電子をもつCeから Luまでのランタニド元素は,電気,磁気,光学,等々 の各分野において興味深い物性をもつ物質を与えること から,現在様々な産業分野で広く機能材料として活用さ れている.
 ここで,4f 電子は空間的に様々な方向に広がった7 つの軌道,すなわち,fx3−3xy2,fy3−3yx2, fzx2−zy2,fxyz,f5xz2−xr2,f5yz2−yr2およびf5z3−3zr2に収容 されることから,ランタニド元素から成る材料の物性 は多くの場合結晶軸方向に対して異方性を示すことに なる.その典型が高い保磁力を有する希土類磁石であ り,1970 年代に開発されたSmCo5磁石を皮切りに, Sm2Co17系二相分離型磁石を経て,近年世界最強の性 能を有するNd-Fe-B 系焼結磁石(主相はNd2Fe14B 化合物)へと開発が進んでいる.これに伴い,モータ に代表されるメカトロニクスの分野に大革命を引き起こ し,モータ等の飛躍的な高性能化を促すことで,従来の ものと比べ小型化と省電力化を併せて実現している. 他方,ランタニド元素の外殻電子配置(基底状態) は,原子で…4fn+16s2または…4fn5d16s2(n=1−14;後者はCe, Gd, Lu のとき),さらに3 価のイオンで… 4fn5s25p6となる.ここで,ランタニド元素を構成する 一連の4f軌道は,6sおよび5d軌道はもとより,5sお よび5p 軌道よりもむしろ原子核側に位置しており,こ のことは4f 軌道は外側に位置する他の軌道により外部 から効果的に遮蔽されることを意味する.そのため,4f 軌道間の電子遷移により生じた励起状態が安定に保持さ れることになり,結果的に再度基底状態へ向かっての電 子遷移を引き起こす確率が増大し強い発光を示すことに なる.希土類イオンを付活した化合物が,優れた蛍光体 やレーザ材料となる所以はここにある.
 われ3価になり易いことになる.ここで,希土類イオン の大きさは3価としては大きく,例えばABO3型ペロ ブスカイト型構造の12配位Aサイトイオンとして,有 用な様々な複合酸化物を与えることになる.特に,4f電 子を内包するランタニド元素では,4f軌道の電気的な遮 蔽効果が小さいために原子番号の増加,すなわち原子核 の陽電荷の増大に伴って原子半径あるいはイオン半径が 低下する,いわゆる「ランタニド収縮」が誘起されるこ とになる.これは,上述した複合酸化物の設計に対し, 多様なイオンサイズをもつ元素を提供できる点で大いに 寄与する.また,4f0,4f7および4f14の電子配置は他 の状態に比べエネルギー的に有利であり,このことは同 電子配置を基底状態でとるLa, Gd およびLu に近接す る希土類イオンを多様なものにする.すなわち,上記の 元素より原子番号が小さい元素では2価,より大きい原 子番号の元素では4価でも安定に存在できることを意味 しており,Eu2+,Yb2+,Ce4+およびTb4+等はその 典型である.これらのイオンは,3価のイオンとは異な る物理化学的特質をもつことから,青色蛍光体,Redox 触媒等々として重用されている.
 以上,4f電子に基づく希土類の特質について概説し た.本特集では,4f電子が活躍する物性に基づく材料に ついて取り上げ,その現状を概観すると共に今後の発展 の可能性について,現在各分野において第一線で活躍す る研究者または技術者の方々よりご執筆頂いた.何かの 参考になれば幸いである.