マテリアル インテグレーション 2003年1月号
特集 セラミックスと21世紀の科学技術


巻頭言
(独)産業技術総合研究所 セラミックス研究部門長 亀山 哲也

 20世紀,科学技術の進展により先進諸国を中心に物質的な豊かさを得ることが可能となった.一方で,資源・エネルギーの有限,深刻な地球規模での環境汚染等を体験し,科学技術の将来に対して国内外で活発な議論が交わされるようになった.科学技術会議政策委員会においても,今後の我が国の科学技術を次のように分析している.

・情報通信革命,生命科学のめざましい進展は,これまでとは質の異なった新しい科学技術文明の時代の幕開けになる,
・20 世紀の科学技術の進歩がもたらした影の部分の影響を最小化することを目指し,環境汚染をはじめとする地球規 模の問題の解決を図り,持続的に発展できる社会の構築が急務である,
・産業の国際競争力の低下や,最近のものづくりの現場で発生している事故・トラブルを深刻に受け止め,技術立国日本の立て直しが急務であると.

 21世紀の科学技術は,これまでの科学技術の功罪を総括し,人類,社会,及び地球と調和し,社会の持続的発展を可能にするものが望ましいという考え方が広く共有されるようになってきた.今後の科学技術を推進するため,平成13年度より5か年の第 期科学技術基本計画がスタートした.ここでは,(1)知の創造と活用,(2)国際的競争力と持続的発展,(3)安心・安全で快適な生活という,21世紀に我が国が目指すべき社会の実現に向け,@重点分野への戦略的な研究資源の投入,A国研の独立行政法人化による柔軟な運用,B産学官の連携強化が必要であるとしている.
 重点的に研究開発投資を行う際の大目標として,高齢社会における安心・安全で質の高い生活の実現,経済社会の新生の基盤となる高度情報化社会の実現,環境と調和した経済社会の構築,エネルギー・資源の安定供給確保の4 つが決められた.これらを実現する上で重要な科学技術としてバイオテクノロジー,情報通信技術,環境・エネルギー技術,材料・プロセス技術等が選ばれた.
 セラミックス,金属,高分子材料等の材料・プロセス技術分野における重要な技術課題としては以下のものがあがっている.

(1)多様な高機能材料を最適に設計・創製する技術の開発要素技術:ナノ材料技術,材料複合化技術,インテリジェント材料,表面界面修飾技術,高集積化技術等
(2)人間・環境調和型高効率材料生産プロセス技術の開発要素技術:生体適合性材料,材料長寿命化技術,特異反応場利用技術,大型複合材料製造技術,省エネルギープロセス技術等

 21世紀の科学技術を先導・提言する創造的研究者組織としての独立行政法人産業技術総合研究所が平成13年4月にスタートした.今までの工業技術院の15の研究所を統合した,2500人の研究者からなる我が国最大の国立系の研究機関である.その中で,我が国のセラミックス系材料の研究開発の拠点として活躍を期待されているのが,名古屋工業技術研究所(名工研)を前身とする,セラミックスに係わる顕著なポテンシャルをベースに発足したセラミックス研究部門である.
 我が国のセラミックス産業は,自動車産業や情報通信産業をはじめとする広範囲な産業分野へ様々な部品・部材を供給し,当該分野の発展に大きな貢献をし,国際的にも高いシェアを誇っている.今後,セラミックス産業の一層の発展を図り,世界的にも高いシェアを維持・向上させる上で,セラミックスの機能集積化,ナノテクノロジーを応用したセラミックスの新機能の発現,環境調和型セラミックス材料及びプロセス技術の開発が不可欠となる.
 新しく発足した産業技術総合研究所セラミックス研究部門がこのような課題の解決のために先進的な役割を果たし,我が国の産業技術の革新に少しでも貢献してくれればと願う次第である.