マテリアル インテグレーション 2002年3月号
特集 21世紀に開花するニューマテリアルと
そのテクノロジーへの招待



先端材料科学特集に寄せて
東京理科大学 教授 櫻井 英樹


 東京理科大学総合研究所先端材料研究部門は,それまでの低温超伝導研究部門を発展的に受け継ぐと同時に,東京理科大学理工学部を中心とした,学内の無機,有機,高分子先端材料研究者を結集する形で平成9年に設置されました.以来活発な研究活動を続けてきましたが,平成12年には文部省私立大学ハイテク・リサーチ・センター整備事業の一つとして先端材料研究部門に付属する形で,研究センターの設置が認められました.平成13年には研究棟が新築され,名実ともに東京理科大学における先端材料科学研究の中心となりました.
 材料を制するものは技術を制すると言われます.どのようなハイテクノロジーもその実行のためには材料を必要とし,ハイ・パーフォーマンスのためには,より合目的的な先端材料を必要とするからです.これらの先端材料は,航空・宇宙分野からレジャー産業に至るまで広い分野で利用されており,産業用途への応用展開がはかられています.さらには,エネルギー問題,環境問題あるいはITなど地球規模の課題の解決に役立つ材料としても飛躍が期待されています.
 これまで,産業界は,新材料によって飛躍的な変革,発展を遂げてきました.複合材料を始めとする先端材料についても,その使用環境が整備されたことにより,これらを用いた新しい産業革命が始まろうとしています.一方では「知的財産形成の国家戦略のあり方」が政府や各界で議論されています.ここでは日本経済再生の命運は知的財産の形成とその活用にかかっているという理解です.とくに先端材料の開発が重要な鍵となっているというのは共通認識です.
 今回,Materials Integration 誌が東京理科大学における先端材料研究の一端を特集することになったのはこれらの観点からまことに時宜を得たものといえます.本特集号で掲載される研究の領域は無機材料から高分子材料,さらにはバイオ材料に至るまで多岐にわたっています.全体として統一のとれた方向付けがなされているわけではありません.これは大学における研究,しかも複数の学部・研究所での研究ですから,当然であるといえます.しかし,共通に目指す方向は物質の新機能であり,新技術であります.
 これまで私立大学での科学研究,特に先端領域の研究は,きわめて特殊な例外を除いて,充分であるとはいえなかったと思います.国立大学に比べて,施設や設備への投資が不十分であったのも一つの原因です.個人的な経験談になりますが,7年前に東京理科大学理工学部工業化学科に赴任したとき,90MHzと60MHzの核磁気共鳴装置(NMR)しかなかったのにはびっくりしました.国立大学では500MHzや600MHzの装置は当たり前で,そろそろ750MHzに移行しようかと言うときにです.
 しかし状況は徐々にではありますが変化してきています.私立大学ハイテク・リサーチ・センター整備事業などによって施設や設備が飛躍的によくなってきました.本学でも,高機能材料解析センター,赤外自由電子レーザー研究センター,さらには先端材料研究センターなどが設置されて材料科学研究のための環境は見違えるように改善されました.先端材料研究のプロジェクトが終了するまでには多くの画期的な研究成果がでていることと期待されます.その意味では本特集に掲載された研究成果は序の口であるともいえます.今後の発展に大いに期待したいと思います.