マテリアル インテグレーション 2002年2月号
特集 マイクロ化学センシングシステム


巻頭言
早稲田大学 理工学部電子 情報通信学科 教授 庄子 習一


 半導体の微細加工や精密加工技術を用いるMEMS (Micro Electro Mechanical System)は研究の段階から応用の段階に移りつつある.この技術を応用し,化学/生化学分析システムを小型化する研究が1980年から続けられている1)
 この分野は欧州ではμTAS(Micro Total Analysis System ),米国ではLab-on-Chipと呼ばれ,研究が盛んである.
 チップ電気泳動システムやDNAチップなどすでに市販されたものもあるが,総合的な意味でのマイクロシステムはまだ研究途上にあるというのが実情である.従来の化学/生化学センシングシステムを小型化するためにマイクロチャネルの形成技術やマイクロバルブやマイクロポンプなどのマイクロ流体制御素子の研究が行われてきた2),3) .一方,マイクロ化された流路(マイクロチャネル)中の流体の物理やその性質を利用したマイクロデバイス/システムの研究も行われている.マイクロ流体制御素子用いて複雑な化学プロセスを実現するマイクロ流体システムは,マイクロメータスケールの微小空間を活用してナノリットルボリュームの微量流体を高精度に制御し特定の機能を発現するマイクロシステムである.
 化学産業への応用は分析や合成の飛躍的な高速化、試料・原材料・廃棄物の極小化、装置の大幅な小型化,分析の効率化をもたらす.また環境分析や臨床分析への応用が期待できる.
 この分野の学術的な国際会議として,1994年から開催されているMicro Total Analysis Systems:μTASがある.
 2001年は10月21〜25日に米国カリフォルニア州モントレー市で開催された.今年で5回目を向かえるこの会議は回を追うごとに規模が大きくなり,今回は発表件数口述72件,ポスター発表200件,参加者は前回よりも200名増の約700名を数えるに至っている.もともとこの会議はMEMS 研究者と分析化学の研究者が中心となり,それぞれの立場で化学分析システムのマイクロ化を目指す研究の発表の場として設立されたもので,前回まではシーズの立場からのMEMS 型化学センシングシステムの基礎技術や電気泳動チップの報告が多かった.特に応用の対象はDNAの分析を中心としていた.今回の傾向としてDNA分析からプロテオーム分析へと研究の対象が移りつつある.また,化学,生化学分野の研究者がそれぞれの立場で,マイクロシステム化に取り組む研究が増加しており,マイクロチャネル内での化学プロセスの実現や細胞のハンドリングなど新たな展開が見られた.これは化学/生化学分野の研究者がMEMS 技術を認知し,その応用に関心を持ち始めたことを示している.次回のμTAS 国際会議は2002年11月3〜7日にアジアでは初めて日本の奈良で開催される予定(http://www.twics.com/〜microtas/)となっているが,この傾向は益々顕著になって行くものと思われる.
 本特集では,マイクロ化学センシングシステム実用化の段階にあるDNA チップやマイクロ電気泳動チップの新たな技術展開について,また,実用的システムで最も重要となるセンシング手法の最新技術について紹介する.また,化学プロセスをマイクロチャネル内で実現するシステム,バイオセンシングをカード型システムにより実現するシステムについて紹介する.


参考文献
1)庄子習一:マイクロ化学分析システム,電子情報通信学会論文誌,J81-C-I, 7: 385-393, 1998
2)Shoji S: Fluids for sensor systems, Topics in Current Chemistry, Springer Verlag., 194: 164-188, 1998
3)Shoji S: Micromachining for biosensors and biosensing systems, Biosensors and Their Applications, Kiuwer Aca-demic/Plenum Pub.: 225-241, 1999