マテリアル インテグレーション 2002年1月号
特集 21世紀に飛躍する材料(3)新材料とその応用


巻頭言
大阪大学産業科学研究所 教授 新原 晧一


 20 世紀の高度に発展した工業社会は我々人類に、地球環境問題,エネルギー問題,人口増加・老齢化問題,食料問題(水問題を含む)等の緊急に解決すべき諸問題をもたらしました.一方21 世紀に入って,情報通信やバイオ医療に関する科学技術が加速度的に発展を示していることはご存知の通りです.この両面を組み合わせると,21世紀の科学技術を支える重要な工学分野は,「情報通信工学」,「バイオ医療工学」,「環境工学」,「エネルギー工学」,「材料工学」であると考えられます.
 この中で,「材料工学」は,我々人類の緊急課題である環境及びエネルギー問題の解決に新しい材料の開発が不可欠であることを考えると,現在の日本の風潮とは異なり,今後は益々その重要性を増すと予測されます.また,新産業の育成においても新しい構造・機能を有する材料の開発が必須です.しかし,環境・エネルギー問題の解決に繋がる,又は新産業の育成に繋がる材料は,当然のこととして,新しいアイデア・コンセプトに基ずくもので,他を差別化することの出来る材料であることが必要なことは言うまでもありません.
 この様な要求に応えることの出来る材料系の1つとして,私たちは,インターマテリアルをイメージしています.インターマテリアルとは,金属,無機,有機,半導体材料を同一種材料或いは異種材料間で複合化・融合化し,材料機能を従来の単機能型から複合機能型へと変革した材料(即ち多機能調和型材料)を意味しています.この様な多機能調和材料を実現するためには,相手材料の弱点を飛躍的に改善しながら一方ではその優れた機能をも更に向上させことを可能にするミクロからナノレベルでの特異な複合構造を実現する方向と,ナノ・分子・原子レベルで2種以上の材料を融合化することによる従来とは全く異なる新機機能材料のイノベーションを指向する方向とが考えられます.前者は,開発した材料をシステム内に如何に組み込むかを考えながらの材料研究(Material Integration Research)であり,後者はシーズ指向の研究に分類できます.
 このような観点から,「21 世紀に飛躍する材料」と題し,2000年4月号では,日本を代表する3人の研究者と中国の研究者に今後の材料研究の展望をまとめて頂きました.それを基礎にして,21世紀に革新的な発展を示すと考えられる材料に関して,「多機能材料」,「新デバイス」「新エネルギー」,「環境保全」,「人間」をキーワードにして,各分野で活躍されている研究者に現状と将来に関して執筆いただきました.続いて2001年4月号では,米国の世界戦略とも関連して,2000年初頭から21世紀の科学技術を支えるナノテクノロジーの基盤となる材料として,ナノ構造制御材料,ナノ及びナノコンポジット材料に関する注目が一段と高まっている状況を踏まえ,インターマテリアルの中心的材料であるナノ材料及びナノコンポジット材料分野の最近の革新的な進展状況を紹介した.本号では,「21世紀に飛躍する材料」特集の第3弾として,「多機能材料」,「環境保全材料」,「バイオ材料」,「エネルギー材料」,「新デバイス」をキーワードにして,将来を嘱望されている日本の若手研究者の最近の成果を「新材料とその応用」と副題を与えて紹介することとしました.
 また,「基礎研究を実用化に結びつける強い社会的要求」,この要求に答えるためには「コストパフォーマンスを考えた新しい実用的なプロセッシングの開発」が重要であることを考え,大型セラミックス部品を安価に製造できるプロセスに関する最近の重要な成果も,本特集で紹介頂くことにしました.
 本特集号が、読者の皆様の今後の研究開発の方向付けの一助になると共に,基礎研究サイドと応用研究サイドの研究者をブリッジングする役割を担えたらと期待します.最後に、多忙の折りにも係わらず,短時間で原稿を作成いただいた著者の方々にこの場を借りて深く感謝します.