マテリアル インテグレーション 2001年10月号
特集 超はっ水・超親水表面


“序 論”

 蓮の葉や里芋の葉は,コロコロと,水を良くはじくことが知られている.水鳥の羽根やアメンボウの足も,水を良くはじく.一方,窓ガラスや紙は,水が良く濡れる.このように,水を良くはじく「はっ水機能」,逆に,水が良く濡れる「親水機能」は,多くの工業的な分野で求められている.
近年,私たちの身の回りに,はっ水加工した繊維製品 (コート,スーツ,ズボン,ネクタイ,傘) や自動車部品 (ガラス,塗料,タイヤ) など,はっ水機能をもった製品が多く見られるようになった.また,親水加工したガラスやフィルムなど,親水機能をもった製品も登場した.このため,“はっ水"や“親水"という言葉も,ようやく身近になりつつある.
 水をはじく“はっ水性 (疎水性)"や逆に水がよく濡れる“親水性",また,水滴が表面から転がり落ちやすいという観点からみた“滑水性"は,新しい機能として,今後私たちの身近な製品に使われることが期待されている.さらに最近では,これらの性質を高度に発揮した,“超はっ水",“超親水",“超滑水"などの表面が得られるようになってきた.本特集では,こういった表面の物理的および化学的な取り扱いや機能発現のメカニズム,またこのような表面をいかにして形成するか,さらにいかに工業的に応用するかを,はっ水性と親水性を中心としてとりあげる.
 はっ水性や親水性は,材料表面での水滴の接触角で評価される.接触角が大きいほどはっ水性は大きく,また小さいほど親水性は大きい.固体材料表面での水滴の接触角は,(1) 水の表面エネルギー,(2) 材料の表面エネルギー,(3) 材料の表面形状 (表面の凹凸) によって決まる.水の表面エネルギーを一定とすると,接触角は,材料の表面エネルギーと表面形状によって決まることになる.このため,はっ水性や親水性を制御するには,材料の表面エネルギーと表面形状を制御することが重要である.この内,表面エネルギーの制御に関しては,表面での官能基を制御することなどが行われている.
 はっ水や親水表面について,今までに各種形成法が開発されてきた.特に,はっ水性の場合について述べと,方法は大きく,(1)ウエットプロセス,(2)ドライプロセス,(3)複合プロセスに大別される.(1)にはゾルーゲル法,化学吸着法,分散めっき法,塗装法などが,(2)には低温プラズマ処理法,プラズマ重合法,プラズマCVD法,スパッタリング法,イオン注入法などが,(3)にはプラズマ処理と化学吸着との複合法などが属する.本特集では,超はっ水表面を形成する代表的な方法について,また,超親水表面の形成法について述べていただく.
 今回は,水に対する表面の性質を取り扱っているが,各種の油に対しても同様な表面の性質が求められている.水に対してはっ水性が優れている表面は,油に対しても優れていることが多い.
 はっ水性$\cdot$はつ油性表面の応用分野は広い.ウインドウ,ミラー,エンジンオイル噴出口などの自動車部品,高層ビル窓材$\cdot$外装材などの建築部材,光学レンズ,めがねレンズなどの光学部品,インクジェット噴出口,マイクロマシンなどの精密機械部品,カテーテル,DNAチップ,バイオセンサーなどの医療用器材,船底塗装材などの船舶部材,パイプなどの輸送用配管材,被服素材,通信機材,パッケージ部材,飲料食品関連材料,氷結防止材などへの応用が可能である.
工業的な応用の場合には,耐久性 (耐水性,耐摩耗性,耐紫外線性,耐油性など),防汚性といった機能がさらに要求される.工業的な応用に耐えうる機能性表面をいかにして形成するかが課題である.
寄稿いただい方々に深く感謝するとともに,本特集から材料科学と技術に21世紀の方向性とヒントが見い出せればと願っている.