マテリアル インテグレーション 2001年8月号
特集 3次元マイクロ構造の創製と応用


“特集号のねらい”


 材料の微構造や組成,形状を3次元的に設計し創製することにより,機能の新たな創出や融合,あるいは飛躍的な向上を図ろうとする研究開発が進みつつある.たとえば,本特集に掲載されているフォトニック結晶は,誘電体の3次元格子であり,格子間隔と同程度の波長をもつ電磁波を完全反射する.この新たな機能は,誘電率や屈折率の周期的な変化と電磁波の干渉作用によるもので,特定のサイズにこだわることなく,格子間隔がナノメータースケールであれば光を,ミクロンスケールであればテラヘルツ電磁波を,またミリメータースケールであればミリ波やマイクロ波を完全反射し,光からマイクロ波に至る情報通信やセンサーに広範な応用が期待されている.また高分子の光重合反応を制御することによって屈折率を傾斜化した光ファイバーの製造技術は,高速大容量の情報伝達を可能にし,すでに実用段階に入っている.

 3次元的なマイクロ構造を創製するには,マイクロマシーンニングやマニピレーション,リソグラフィーあるいはマイクロパターンニング,自己組織化や自己クローニング,それにラピッドプロトタイピングなど,物理的,化学的,機械的な微細加工技術が使われる.ラピッドプロトタイピングは,複雑形状部品のモデルをCAD/CAMによって鋳型なしに作製する自由造形技術として発展して来たが,最近では単なるモデル品でなく,それに電磁気的,機械的,さらには生体的機能を持たせ,実際に使える材料の製造法へ発展させようとする研究開発が世界的に進められている.動植物の生体組織は,自然の摂理に添って,成長と分解,再生を繰り返す生きた3Dマイクロ構造の世界と言ってよく,その構造と機能の関係は3Dマイクロ構造デバイスの創製に大きな示唆を与えるとともに,3Dマイクロ構造の自由造形技術は,より精巧な生体材料を生み出し得るであろう.

 複雑な3次元構造や形状を製造するプロセスがコンピューターの助けを借りてディジタル化されてくると,ITとリンクすることが可能になる.インターネットと融合させた材料製造技術を筆者はサイバーマテリアルズエンジニアリングと称しているが,現状の情報通信技術が文字や画像情報の電送に止まっているのに対し,物の電送や遠隔生産,個別的な注文生産が可能になり,製品の設計,開発,製造,輸送等に変革をもたらすだけでなく,省エネルギー,省資源,環境保全に大きく寄与する可能性を秘めている.

 本特集は「3次元マイクロ構造研究会」で行われた最近の講演が中心になっている.寄稿いただい方々に深く感謝するとともに,本特集から材料科学と技術に21世紀の方向性とヒントが見い出せればと願っている.