マテリアル インテグレーション 2000年7月号
特集 -応用の拡がる- 熱電変換素子の新展開


「特集にあたって」
名古屋大学大学院工学研究科 教授 河本 邦仁

 熱電変換工学の分野では,最近5〜6年の間に新しいコンセプトや材料の提案が盛んに行われるようになり,新材料開発競争が激化してきている.高効率材料開発のための新しい概念として,超格子(量子井戸)構造,Electron crystal & phonon glass,ラトリング低熱伝導化,強相関電子系,低次元構造,重フェルミオンなどが提案され,それに基づいて人工超格子材料,層状構造酸化物,スクッテルダイト系化合物,Co含有酸化物,クラスレート化合物など,多くの材料が提案・開発されている.また,ナノ構造化,傾斜組成化,高圧合成,配向セラミックス化,メカニカルアロイングなどの新しいプロセス・構造制御技術の開発も盛んである.応用面でも,従来からあるペルチエ冷却素子から脱却して,環境調和を想定した熱電発電への応用が随分検討されるようになった.

 毎年,アメリカ,ヨーロッパ,アジア地区の順に開催される熱電変換国際会議の論文発表件数が10年前は50件程度だったのが,ここ3〜4年は150件を超えているのを見ても,この分野に対する期待と関心の高まりを知ることができる.この要因にはいくつか考えられるが,エネルギー有効利用と地球環境保全に対する認識の世界的広がり,経済状況の悪化に伴う新産業創造の模索,超伝導など他分野からの優秀な研究者の参入といった状況が複合的に作用している.

 何十年にもわたってずっと低迷してきた熱電変換効率が,新しいコンセプトに基づく新しい材料によって一挙に上がり,熱電材料の応用分野が急速に開ける前夜を迎えている.ブレークスルーはもう目の前に来ていると言っても過言ではなかろう.このようなタイミングを捉えて,本号では「応用の拡がる熱電変換素子の新展開」と題する特集を組み,我が国で活躍する一線級の研究者に最新の熱電材料研究の成果を紹介していただくとともに,新しく進められている熱電発電応用の開発研究例の解説をいただくことにした.この分野への理解を深めていただき,興味と期待を抱いて頂ければ幸いである.