マテリアル インテグレーション 2000年4月号
特集 21世紀に飛躍する材料


「21世紀に飛躍する材料」
 大阪大学産業科学研究所 教授 新原 晧一

 20世紀の高度に発展した工業社会は,我々人類に緊急に解決すべき諸問題をもたらしました.地球環境問題,エネルギー問題,人口増加問題,食料問題(水問題を含む)等です.一方,20世紀末の現在の科学技術動向を考えると,21世紀に情報通信やバイオ医療に関する科学技術が加速度的に発展するのは確実です.この両面を組み合わせると,21世紀の科学技術を支える重要な工学分野は,「情報通信工学」,「バイオ医療工学」,「環境工学」,「エネルギー工学」,「材料工学」であると考えら れます.

 この中で,「材料工学」は,我々人類の緊急課題である環境及びエネルギー問題の解決に新しい材料の開発が不可欠であることを考えると,現在の日本の風潮とは異なり,今後は益々その重要性を増すと予測されます.また,新産業の育成においても新しい構造・機能を有する材料の開発が必須です.しかし,環境・エネルギー問題の解決に繋がる,又は新産業の育成に繋がる材料は,当然のこととして,新しいアイデア・コンセプトに基づくものであり,他を差別化することの出来る材料であることが必要なことは言うまでもありません.

 この様な要求に応えることの出来る材料系の1つとして,私たちは,インターマテリアルをイメージしています.新しい概念に基づく,このインターマテリアルの基本的な考え方は,Material Integration 誌の1999年1月号,5月号,8月号,11月号と2000年1月号に紹介済みでありますので,詳細は其方を参考にして頂きたいが,簡単に述べるとインターマテリアルとは,金属,無機,有機,半導体材料を同一種材料或いは異種材料間で複合化・融合化し,材料機能を従来の単機能型から複合機能型へと変革し た材料(即ち多機能調和型材料)を意味しています.この様な多機能調和材料を実現するためには,相手材料の弱点を飛躍的に改善しながら一方ではその優れた機能を更に向上させことを可能にするミクロからナノレベルでの特異な複合構造を実現する方向と,ナノ・分子・原子レベルで2種以上の材料を融合化することによる従来とは全く異なる新機機能材料のイノベーションを指向する方向とが考えられます.前者は,開発した材料をシステム内に如何に組み込むかを考えながらの材料研究(Material Integration Research)であり,後者はシーズ指向の研究に分類できます.

 本特集号では,この21世紀をリードすると思われるインターマテリアルに関して,先ず,日本を代表する3人の研究者と中国の研究者に今後の材料研究の展望をまとめて頂きました.それを基礎にして,21世紀に革新的な発展を示すと考えられる材料に関して,「多機能材料」,「新デバイス」「新エネルギー」,「環境保全」,「人間」をキーワードにして,各分野で活躍されている研究者に現状と将来に関して執筆いただき,それらを“New Interactive Clever Engineered Materials", “New Energy Related Engineered Materials", “New Device Related Engineered Materials", “New Nanostructure Related Engineered Materials", “New Human & Environment Related Engineered Materials" に分類して収録しました.

 本特集号の企画者は,ここに収録された新しい材料,又はこれらに近い材料が,現在人類が直面している環境保全問題やエネルギー問題の解決に威力を発揮するとともに,新規産業の育成に繋がると確信しています.

 読者諸兄の,忌憚の無い意見を賜れば幸いです.