マテリアル インテグレーション 1999年7月号
特集 酸化物強誘電体薄膜の合成とその物性


“特集号のねらい”

 21世紀における社会・産業の発展は,知的センサシステム,情報伝達システム,環境バイオシステムなどの分野における多機能変換材料の創製にかかっている.誘電体は分極を有し,これらが環境からの刺激に敏感に反応し,電界,温度,圧力,光,不純物などに対して,それぞれ分極履歴現象,焦電性,圧電性,電気光学性,半導性などが生じる.このような多機能性強誘電体薄膜の新規な機能変換創出のためには原子,分子レベルでの精緻な構造設計,プロセス制御が必要になる.誘電体複合変換膜を創製するためには,ECR,ヘリコンスパッタ,レーザアブレーションなどの物理的手法とMOCVDやゾルゲル法などの化学的手法との融合成膜法などが考えられる.このような高度な独創的技術を用いることにより,原子,分子レベルでの構造制御が可能となり,画期的な複合変換機能を有する人工誘電体薄膜の開発が期待される. 強誘電体メモリーは高速性,低消費電力,高集積性,耐書き換え特性に優れた不揮発性メモリーであり,応用開発が非常に盛んである.不揮発性メモリーとしては既存のEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラシュメモリーに比べ,書き換え速度は106倍以上高速で,消費電力が小さく,書き換え耐性も107倍以上と優れている.既存の全てのメモリーを置き換えていくというポテンシャルを秘めており,究極のメモリーと位置付けられる.

 強誘電体メモリーはDRAMと同程度の高速性と高集積性を有し,不揮発性を兼ね備えるためにROMやバッテリーとの併用の必要がなくなる.その為既存の半導体の大部分を置き換える可能性を持っている.現在は256Kbit程度の比較的低容量の商品化が始まったばかりである.集積度が高くなるにつれて市場は拡大されて行くのは自明である.汎用メモリーとしてもEEPROMの置き換えや,システムLSIへの搭載するメモリーとしての要望が強い.その中でもICカード用チップへの応用への期待が持たれている.

 本号では以上の背景を踏まえ,各種薄膜の合成法とその強誘電体薄膜の物性について特集する.なお,本特集号の執筆者は日本学術振興会未来開拓推進事業,研究プロジェクト誘電体薄膜の複合構造制御による高性能化と機能変換の多様化(プロジェクト番号96P00105)のメンバーによるものである.