マテリアル インテグレーション 1999年5月号
特集 InterMaterial [2]


“特集号のねらい”

 日本のおかれている現在の厳しい経済的・政治的環境を考えると,従来型の材料開発コンセプト並びに姿勢がそのまま許されるとは考え難い.私たち材料研究者は,この様な環境の変化に対応し,材料設計(構造,機能,性能,プロセス,コスト等を含む)コンセプトと研究開発の環境・条件(資金,人員,期間等を含む)を変えていく必要がある.この際に特に要求されるのは,新規産業の育成につながる独創的な新材料の開発を短期間に効率的に推進していく姿勢であり,その為にはMaterials Integration的立場からの材料研究が強く求められる.

 インターマテリアルとは金属,無機,有機,半導体材料を同一種材料或いは異種材料間で複合化・融合化し,今までとは全く異なる構造・機能を付与した高次機能材料,或いは材料機能を単一機能から複合機能へと変革した高次機能調和材料を意味している.この1群の従来材料の範疇をはみ出した新材料は,Materials Integration的材料設計コンセプトで始めて実現できる材料で,近い将来に我々人間が克服すべきエネルギー・地球環境・人工の老齢化問題の解決に威力を発揮すると信じられている.

 今までの材料とは全く異なる高次機能が付与されたインターマテリアルは,金属・無機・有機材料を原子・分子・ナノレベルで融合化することにより実現できると考えられている.この全く新しい高次機能材料の研究は,従来材料の枠を突破した新しい材料科学の構築とそれを基礎にした新産業の育成を最終目標にしている.この様な新材料を創成するためには,言うまでもなく原子・分子レベルから新物質を創成する新しいプロセスの開発が重要で,高機能薄膜材料をイメージしたシーズ指向の研究に分類できる.しかし,この様な基礎研究においても,研究の高効率化を達成するためにはMaterial Integrationを意識した研究が必要なことは言うまでもない.

 一方,高次機能調和型インターマテリアルは,現在我々人類が直面しているエネルギー問題,地球環境問題,人口高齢化問題の解決に関して特に重要な役割を果たすと期待されている.この多機能調和型インターマテリアルを実現するためには,相手材料の弱点を飛躍的に改善しながら一方ではその優れた機能の更なる向上を可能にする,ミクロからナノレベルでの構造制御で特異な複合構造や界面制御構造を実現する必要がある.この材料分野の研究は,特定の目的を達成するためのシステムに必要な複合機能を想定し,それを1つの材料内に如何に組み込むかを考えながらの材料研究(Material Integration Research)であり,目的が明確なニーズ指向の研究に分類できる.

 この高次機能調和型インターマテリアルは,主にバルク材料を目標とし,構造制御に関してはマクロからミクロ,ミクロからナノ,ナノから分子・原子レベルへと展開され,それに伴い研究内容は,現存材料の機能拡張から構造材料と機能材料の融合へと移行すると考えられる.なお,この分野の研究も最終的に,現在人工格子法でしか達成できないと考えられてきた原子・分子レベルで構造制御した全く新しい機能を持つ材料を,バルク材として実現する方向へと研究が移行すると思われる.これが達成できた時点で両インターマテリアルの構造制御は同一レベルになり,両者の合致は金属・無機・有機材料の枠を超える新しい材料科学の構築と,それを基礎にした新産業育成に繋がるはずである.

 本特集号では,この2種類のインターマテリアルの中で後者,即ちミクロからナノレベルの構造制御に強く関係している高次機能調和材料を1月号に引き続き取り上げた.その理由は,この材料はMaterial Integrationを強く意識することにより始めて実現可能で,本月刊誌の目的と合致すると考えられるからで,また日本のおかれている現状を考えると,今後の産業戦略に確実に組み込むことが可能な材料が,現在最も必要とされており,またこの様な立場での展開がより多くの情報を読者に提供可能であると判断したからである.この様な考え方に対して,また本特集号の内容に関して読者の皆様から忌憚のない意見を頂けると幸いである.

 なお,この特集号で取り上げた材料は,“New Interactive Clever Engineered Materials”,“Surface and Interphase Engineered Materials”,“Human Related Engineered Materials”に分類でき,今後もこの分類に基づくInterMaterial特集号を組みたいと考えている.