マテリアル インテグレーション 1999年3月号
特集 Liイオン二次電池産業と技術の最近の進歩


 “特集号のねらい”
 日本電気(株)研究開発グループ 主席技師 米澤正智

 1992年にLiイオン二次電池が量産を開始されて以来満6年が経過し,1999年には生産額が3000億円を突破すると予測され,大きな産業に育っている.この電池の量産は日本がほぼ独占しているという特徴ある産業の領域である.二次電池では,ニッケル・カドミウム電池が携帯用電池として先行し,その後ニッケル・水素電池がその後に登場した.Liイオンはこのニッケル・水素電池に対して1-2年遅れて登場したが,重量エネルギー密度が高いという特徴が認められ,価格が高いにも関わらず,爆発的に普及してきたPHSや携帯電話,ノートパソコンへの搭載が進み,これらの機器の軽量化に貢献し,一次電池を含めてあらゆる電池の中で最も生産額の高い電池となっている.

 この6年間の間には技術的な大きな進展があった.円筒型の標準である18650型では量産開始時期に1000mAhの容量であったが,最近では1600-1700mAhのものが市場に出るまで高くなってきた.Liイオン二次電池を構成する電極材料は,正極活物質であるLi酸化物と負極活物質材料である炭素材料がある.この活物質以外にはバインダーや導電性付与材があり,電極物質を担持する導電性基材であるアルミ箔や銅箔がある.正極と負極の間を絶縁するがイオンを通す,微細な空孔を有する高分子のセパレータ,Liイオンの移動を可能にする有機系電解液と電解質がある.更に電池の総重量に大きな影響を与える外装の金属缶ケースあり,安全性の確保に寄与するPTC素子なども含まれる.

 電池としての性能はこれらの材料単独の性能は当然重要であるが,それぞれの材料をいかに組み合わせるかも重要な要因であり,しかも二次電池の特徴である充電を繰り返しても性能の低下を抑制しなければならない.従って初期性能のみならず,数百回のサイクルを経た後の性能を維持するために評価解析も重要である.二次電池では充放電を繰り返す内に,電解液の分解と分解物質の電極上への堆積現象もあり,しかもこの現象が環境温度や動作電圧にも影響を受けるという現象自身の複雑さと解析の困難さがある.

 生産プロセスとしては有機系電解液は水分の影響を受けやすいので,工程的にドライな環境での電池組立が必要であり,構成部材の水分管理も重要な要因である.

 電池のコストパフォーマンスを上げるために,材料面からは正・負極の活物質の高性能化や価格低減のための研究開発が多方面の機関で行われている.これらの材料開発にはエレクトロニクス用セラミックスの開発手法が活用されている.二次電池の新しい応用としてエレクトロニクス用の携帯電池のみならず,環境問題の解決にも貢献する自動車等の輸送機器にも搭載可能な大容量電池や瞬時に放電できる能力を高めたパワー用電池の開発も進展している.

 本特集号は上記の観点から最近の進歩を紹介できる内容を纏めたものであり,読者に参考になれば幸いである.紙面の都合でポリマー系の電池までは盛り込めなかったが,これはまたの機会に譲ります.